迷馬の隠れ家 はてな本館

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パンの“焼きたて”は偽装か?真実か?

食品偽装に関する記事の一部に、製パンに関する誤解が書かれていた。それは、“焼きたてパン”といえど、その殆どは、生地を店舗で作らずに、焼き釜だけだからバイトでも焼けるという文言である。これもまた、とんでもない誤解であると同時に、むしろ、製パン技術において素人にできるのは、どっちかと言えば、パン生地を捏ねる方であって、形成は相当な訓練と生地を扱う為の技能が必要となる。つまり、経験がないと、店舗に並べる(=売れる)パンとして提供できない事を意味する。なんでこんな事が言えるかといえば、オイラの母方の祖父がパンの職人だったからであり、オイラも何度か、工房で実際に、食べたいと思ったパンの形成をした経験があるが、祖父の様にまるで機械で計ったかの様な同じ形のパンに形成する事はできなかったからだ。

さっきも言った通り、生地を捏ねるのに、特別の技術は、ぶっちゃけ必要ない話であって、分量さえキチンと計って、専用のミキサーで捏ねれば、大概の生地はふんわりと仕上がる。少数ロッド…要は完全手捏ねの製法でやる場合でもそこんトコは同じで、使用する液体(水や牛乳等)の温度(湯捏ね生地で80℃、通常でも35℃)さえ守れば、機械で作る以上に旨いパンに仕上がる。また、イースト菌は生地温度が60℃を超えると死滅する為、湯捏ね生地のイースト添加は、生地がある程度の温度…最悪でも45℃まで下げてからでないとやってはいけない。だから、一般家庭で作るインスタントドライイーストは、湯捏ねを想定した菌が使われているのであって、一度封を切ったドライイーストは、長期保存したい場合は、冷凍庫に入れるのが基本である。(すぐ使い切るなら常温でもいいが、夏場の事を考えると、通常は冷蔵庫保存が望ましい。)まして、生イーストは殆どの場合、冷凍保存からの“種起こし”をやってから使うため、事前の仕込みが必要となる。まして、ライ麦100%で作るパンは、イースト菌が使えない(イースト発酵を阻害する酵素がある)為、ライ麦が持っている酵母を使って発酵させる為、種起こしからの事前準備が重要となる。しかし、それさえクリアできれば、殆どのパン(テーブルロール・食パン系)は誰でも簡単にできる訳で、特に食パンは、形成に必要なのは、焼き形に詰める為のガス抜き作業ぐらいで、生地を伸ばして巻くだけで焼き形にいれないなら、単なるコッペパンになる。しかし…同じパンでも、菓子パンの類…特にフィリング(具材)入りパンの場合、具材を包むのに、結構技術が必要になる。あんパンでも、生地中心に入れる餡を丸めてあるからと言ってそのまま包んでいいってモンではない。量が適正でないと、焼いてる途中で破裂して、中身が飛び出す…そう、薄皮あんパンを作ろうとしても、ド素人が包んだヤツでは、焼いてる最中に、中の餡が膨張して、外に出てしまうのである。カスタードクリームパンは更に難しく、中のクリームが煮えると、生地の薄い部分から破裂して、全部外に漏れしてまうのである。だから、メーカーによっては、クリームを焼成後に横から注入する方式をとるトコもある。
話が逸れたんで元に戻すと、チェーン展開してる自家製パン屋の場合、地域の本部となる店舗で生地と形成を行ってから、各店舗へ運んで、店舗内の焼き釜で焼くから、いつでも“焼きたて”を提供できるのであって、同じ理屈で言えば、大阪では有名な豚まんの551蓬莱では、本部のセントラルキッチンで豚まんの生地と中身を作り、拠点となる店舗で“職人”として認められた店員の手によって形成してから蒸し上げ、更にサテライトの店舗に保温材を付けたケースに入れて発送するという方法をとっている。その際、拠点となる店舗の作業場に届くタイミングで生地の発酵が完了してる状態になる様に調整してあるという。コレと同じで、専用の焼き釜があるなら、最後の仕上げだけを店舗に任せれば、同じ生地の“焼きたてパン”を提供する事は可能であり、パンの形まで同じにする場合は、工場での一括生産で、形成と最終(二次)発酵まで行った生地を冷凍して店舗へ発送して、各店舗の焼き釜で焼けば、職人は必要ない。個人経営のパン屋でない限り、こういう事は普通であって、こういう事を言い出すと、移動販売のメロンパンとかは、それこそ、記事を書いた人流に言えば“食品偽装”そのものになる。アレも、現場で生地を捏ねられない(食品衛生法に基づき、野外での調理に制限があるため)から、販売先となる駐車場等へ向かう前に予め生地を捏ねて、形成(二次発酵も済ませた)した状態で冷凍保存し、移動先で車内の焼き釜で焼いている訳である。そういう事も知らない様では、とてもじゃないが、他のパン屋に失礼である。もっと言えば、大手メーカーのパンの方が、よっぽど“中身が怪しい”のであって、個人経営のパン屋の苦労をバカにしてはいけない。一見、簡単そうに見える話だが、そこには、食品衛生法に絡んだ基準があって、それをクリアする為に冷凍保存や輸送時間を使った調理方法がある訳である。だから、フリマ等の野外で“焼きたてパン”を謳い文句にして商売してる者に対し、そういった裏事情を理解した上で批判しなければ、結果として恥を掻くのは、利用者よりもロクな取材もせずにモノを書いた記者自身だ。