迷馬の隠れ家 はてな本館

旅好き・馬ぐるみゃー・オジアナヲタクな主婦の、雑多なコンテンツですw

“消費者”としての憂鬱、“生産者”としての憂鬱

昨日、ひょんな事からTwitterで盛り上がった今年の野菜価格高騰話。対象となったフォロワーが都内在住という事もあり、また、結構農家の直売場を利用するのに、最近は近所のスーパーとかわらん値段でどうのこうのと言ってたんで、農家としての視点と、小売業としての視点を経験してるオイラ的私感でここの部分を解説しようと思う。ぶっちゃけ論を先に言えば、小売業での価格ってのは、実際は農家の元売り価格の2〜3倍増で設定される事が多く、地場産の作物が近所の青果店やスーパーと変わらん価格で提供されている場合、泣きを見てるのは、店舗から離れた産地の農家である事は言うまでもない話だって事である。てのも、元売り価格(卸市場価格)ってのは、卸業者の需要によって変動する事が多く、農家とて、豊作だから儲かるという訳でもなければ、不作だからと出荷を遅らせる訳にもいかないのが、現状として存在する。
具体的な話をすれば、オイラん家の今年のトマト、出荷量が少ない分、シーズン合計の収益は、120万円程度でした…原因は、春先の長雨により、出荷前の未熟な果実がカビで腐った事による事と、日照不足で生育が遅れた事です。例年だと4月中旬から7月中旬まで生産できて、収益も150〜170万程度です。1ケース(大きさにもよるが、およそ20〜25個入り)で平均800〜1000円が例年の“通常取引価格”ですから、いかに今年は他の生産農家も苦労してるかがよくわかります。(ちなみに今年は、1200円が最高値でした…)これが豊作の場合だと、1ケースでも800円にならない場合があります。(今までの最安値は、1ケース500円…)ついでに言えば、この価格はあくまで表面上に傷がなく、しかも歪な形などがない状態のものでの卸市場価格です。そこから、仲介業者のバイヤーが、小売業の注文に応えて調達する訳ですから、ココで中間マージン(仲介手数料)が掛かります。そして、小売店で陳列されるときに、その手数料が換算されて、実際の“小売価格”となるのです。大手スーパーなどでの契約を行っている農家の場合、仕入れに使える金額を提示された上での取引を行ってますんで、規定数量の収穫がないと、契約を破棄される可能性があります。逆に、それを上回る収穫が見込めたとしても、出荷数量自体に制限があるため、せっかく食べ頃のいい状態の作物があっても、出荷できずに腐らせてしまう事もあるのです。
JA…農協とは元々、小作農家ではどうにもならない事業に対する支援を行うための組織であり、地域農家が共同出資する事で、農地の区画整備や農業用水の確保などの公共事業を請け負い、地域の農作物の出荷や選定を包括的に行う事が主な目的として存在する、ぶっちゃけ、社会共産主義の“基本中の基本”形態です。(正式名称は“農業協同組合”ですからねw)しかし、都市部のJAは、銀行業務に移行し過ぎて、小さな農地を守っている農家に対して、資金援助すら行ってません。言っときますが、先ほども述べたとおり、農協の本来の姿は、農家の営農支援であり、ひいては農家の生活支援でもあるのです。営農支援の一環として、地域の特産物を“ブランド作物”として全国…否、全世界にセールス活動を行う事も、業務の一環に存在します。しかし…ブランド作物には様々な制約があり、同じ作物を売り込みたくても、味や生産力、さらには消費者の“産地に対するイメージ”によって、価格に多大な影響が出ます。具体例で言えば、“宇治茶”として出荷される奈良県産茶葉と、“大和茶”として出荷される奈良県産茶葉…同じ奈良市月ヶ瀬地区で収穫された茶葉であっても、奈良県内の製茶工場で加工するのと、京都府内にある製茶所で、いわゆる“宇治方式”と呼ばれる製茶技術で加工されるモノでは、価格にかなりの差が出ます。(有名製茶店の緑茶で1500円する上級品でも、月ヶ瀬の直売所では1000円以下で手に入る場合もあるw)以前、解説をしたかと思うが、いわゆる“宇治茶”というヤツは、京都府宇治市で製茶された近隣4府県(京都・滋賀・奈良・三重)の茶葉を指していて、京都以外で製茶された場合、地元名ブランドになります。故に、奈良県内の多くの茶葉農家は、京都府内に加工場を持つ製茶店に卸すのであり、それに適さなかったモノ、あるいは出荷調整で余ったモノを自家用茶葉としてストックしてる訳です。
もう一つ、価格のカラクリを知る上で注目して欲しいのは、新聞の経済欄に小さく載っている、主要中央卸市場での“平均取引価格”です。関西では多くの場合、大阪中央卸売市場での取引価格が一つの目安になります。例えば、トマトのケース単価が700円だとすると、他の市場ではこれより安い価格て取引されている可能性があります。もちろん、産地や品種によって価格は変動しますが、JAを介さずに卸市場で直接取引を行っている農家にとって、この“平均取引価格”ってのは、いろんな意味で死活問題に直結します。JAを介してる場合だと、そこが“平均価格’の名の下に集約するため、ある程度の目安が立つ反面、市場小売よりも安い価格に設定されている事もあり、どんなに高価格で市場取引が行われても、末端の農家に反映される事は、殆どありません。しかし、卸市場や大口契約を行っている農家の場合、シーズンごとの乱高下は日常茶飯事である。だが、場合によっては農協経由での収入よりも大きいため、また、価格設定も自由であるため、あえて農協を介さずに出荷する農家もいる…オイラんトコは、まさにそれで、故に、農協指定の専用ケース(JAのロゴはが入ったヤツ)が使えない反面、個人契約で梱包業者にケースを発注して持ってきてもらう事や、中古のケース(他の作物出荷に使ってたヤツの使い回しw)で出荷する事もできる。さらに、事業所形態で営農を行っているトコの場合、エコロジーの観点から、回収可能な折りコン(折りたためるプラスチックコンテナ)で出荷を行っているトコもある。
話が脱線したが、JAが絡む場合、管轄内の農家を保護するために、軒先での直売に関してもルールを作って、収入の安定化を図るトコもあるが、消費者側に回った時、そんな経営でいいのかという疑念を抱かざる得ないトコがある。もちろん、高額取引で収入が安定すれば、古くなった農機(トラクターやテーラーといったヤツ)の購入に拍車がかかるのだが、不安定で、かつ、低価格での供給を余儀なくされるトコでは、レンタルでも厳しい事がある。特に、棚田のように大型機材を導入したくても無理なトコでは、管理機(カセットガスなんかで動く小型耕運機)でチマチマやっていくのが関の山で、しかも自分トコの田畑が集落内でもバラッバラにあるようなトコでは、田畑の大きさに合わせたモノを用意しないと作業能率が悪いw(まして、ハウス栽培をやってるトコでは、高さ制限まである!!)こういった事を踏まえると、農協を介して農機具メーカーに中古機器を購入するケースが多いのは、必然的な事といえる。新型機を購入するにしても、小型のトラクターですら、1台あたりが人気軽四の車両本体価格以上するんで、おいそれと買えないのが実情です。言い方を変えれば、農家として収益を大幅に伸ばしたい反面、それに似合うだけの投資に対しては、少ないリスクで済ませたいと思うのは、消費者的な見解からして同じなんです。ゆえに、食費を切り詰めるために、消費期限ギリギリの肉や、中国産である事を承知で安価な加工食材を購入する事が多いのです。健康云々ではなく、すべては農作での収入を設備投資に注ぎ込むためです。当然、そこには冬場のハウス栽培での光熱費(主に暖房用のボイラー燃料となる重油)や、修繕費(ガラス張りの温室ハウスの場合、強化ガラスが割れる度にフレームごと交換だからなぁ…)も含まれるし、農薬や肥料も、自分トコにコンポストがある場合でも、作物によっては使えない(土壌のph度が適さなかったり、一部の養分が過剰になったり…)事もあるんで、必ず“客土”といって、どっかから調整用に補充する事もある訳です。(よくあるのは、浄水場で沈殿池に溜まった泥を、自治体から無償で分けてもらうケース。下水処理場のヤツは肥料としても使えるんだが、加熱処理してないと…w)
スーパーと価格が変わらんからといって、地元農家の直売所を避けるのは、ひいては遠方の農家の生活を困窮に追い込む一因になりかねません。かといって、農家の人に価格を安くして欲しいと思うのであれば、自分自身で農地を借りて、そこで営農されてはいかがでしょうか?農家も高齢化が進み、故に耕作地を縮小させています。農家の安定収入と、農地の耕作放棄を少しでも減らすには、自治体やJAも一緒になって、農地の“レンタル事業”をやるべきではないでしょうか。ま、こういう意見を高齢農夫に提示しても、殆どの人は断りますねwだって、自分で、あるいは先祖が開拓した土地を、農業をナメてる素人に明け渡すのは、いろんな意味で屈辱でしかないですから。だけど、なんで自分の息子や孫が農業を継ごうと思わなかったかを考えた時、自ずとその答えは見えてきます…ブラック企業よりも厳しい労働条件(いろんな意味で24時間年中無休w)で、しかも収入が不安定で、取り扱う作物によっては、投資元本割れする事が必至だと、普通のサラリーマンやってる方が、どれほど楽か…生産者として収穫量を維持したいなら、それに似合うだけの犠牲を払わないと無理なのです。僻地の農家の子供達にとって、TDRUSJに連れて行ってもらう事なんてのは、夢のまた夢です…休みもなければ収入もないんでw ま、この件の話の続きは、次回、もうちょっと詳しくやらせてもらいます。