迷馬の隠れ家 はてな本館

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礼節としての“座礼”

奈良県の公立校の初出場は50年ぶり、智弁学園、天理、郡山の“3強”以外の出場は44年ぶりと、新たな歴史を刻んだ桜井。17失点で短い夏が終わったが、試合後、選手たちがグラウンドに正座し「ありがとうございました」と聖地に頭を下げると、観客から大きな拍手が沸き起こった。
(by:スポニチアネックス 2013年8月10日 14:41配信分 抜粋)
Web上でも…特にSNSで画像が貼付けられていて、見た人も多いかと思うが、どうも勘違いされている人が多い様ですね。Twitter上でも一言書いたが、写真を見ると彼等の行動が“土下座”に見えた様です。しかし、これは“座礼”といって、武芸を嗜む人であれば、この行動が何を意味するか、すぐにわかったハズ。そう、桜井ナインがやったのは、対戦相手の作新学院に対してではなく、甲子園球場でプレーできた事に対しての最敬礼であり、自発的にやったまでです。つまり、土下座も一応、“座礼”のひとつですが、その意味合いは全く別モノ。言い方を変えれば、自発的に、且つ、儀礼としての最敬礼のカタチとしてやるのと、相手側の要求に対し、一切の責任を押し付けられた挙げ句にやるのとでは、心理的に、そして相手側の態度によって、変わってくる訳です。そもそも、土下座が一般化したのが、任侠映画やマンガで多用させたからこそであり、本来の意味とは、まったく違った解釈がそこに加わるから、話がややこしくなる訳で…

座礼は、特に茶道裏千家における作法として、三つの形式があります。ひとつは“真”…主人や床の間の掛け軸等に対して、客人として招かれた者が敬意を払い行う作法で、両手を静かに膝から前へ下ろし、自然な格好で上体を倒し、掌を完全に地面に付け、頭を下げるやり方で、他の茶道においても、基本的にこの形式での座礼を基本としています。次に“行”…客人同士の挨拶で用いる、若干簡略化したやり方で、背筋を伸ばしたまま、上体を前に屈めますが、その際、掌は完全に地面に付けず、指先から第二関節までの部分を付ける程度で留めるやり方です。そして“草”…これは通常では主人が点前の途中で客人に対して会釈するやり方で、指先を地面に軽く付けて、軽く上体を倒すやり方です。通常は腋は閉め、正座をした状態で、手の位置は八の字を描く様な状態(表千家では、女性は二寸、男性は一尺程度開けるが、裏千家は両手を揃える)で行います。写真で見る分には、若干、おかしな部分もありますが、基本的にこの座礼は、裏千家に近い方法で、しかも“真”の姿勢でやっています。これは、男性の座礼でよくある特徴で、実際に手を八の字に前に出して地面に付けると、肘が外側に逃げるからです。女性の場合、上手く肘が内側(お腹方向)に入るため、開く事がありませんが、そこんトコも計算済みで、表千家での座礼では一寸…つまり、両手の指先が30センチ程間隔が空いても、それは失礼に当たらないのです。
では、なんで土下座と勘違いされたのかと言えば、この肘が問題なのです。よく見るとわかりますが、彼等はキチンと指先を合わせた状態…つまり、裏千家流儀の作法で一礼をしています。でも、そういう正式な茶席や、武芸を嗜んでいない人にはこれが“わからない”のです。そう、一般的に言われる土下座は、どちらかといえば“苦行”であり、通常、手の位置が並行に、しかも肩幅に出して地面に付くのは、本来、五体投地(バツライともいう)のやり方であって、宗教での崇拝法です。あくまで、五行(木・火・金・水・土)讃頌のひとつであり、八百万の神々を鎮める為の儀礼であり、今でもチベット仏教ムスリムの修業の一環として、また、日本の仏教でも、真言密教では苦行のひとつとして行われています。つまり、本来の“座礼”とは、まったく意味が違うのです。
ですから、一見するとキモい行動に映ったかもしれませんが、儀礼として考えれば、単に立ったままで一礼をするよりも、より丁寧で厳粛なやり方をやったまでです。まして、気持ちを律してまでも強豪と挑んで敗れた訳ですから、それ相応の対応だと思いますよ。ただ…この一件だけ見て桜井高校の監督を叩くのであれば、私学の名門校・強豪校が、如何にエグい事をやっているかを想像してください…今年の奈良大会で、甲子園常連校である智辯学園天理高校が、何故決勝まで残れなかったのか、春季大会で優勝した奈良大付属高校が決勝で桜井高校に負けたのか…そのすべての“答え”が、あの座礼に出ています。